16.「リスペクト」

藤本久俊(弁護士)
最近、医療訴訟の動向に変化が見られるようにな った。平成に入って増加の一途をたどっていた新受 件数(1 年間に提訴される件数)が平成 16 年の 1110 件をピークに、平成 21 年には 733 件、平成 22 年に は 793 件に減少したのである。
その原因については、(1)医療機関の安全対策が進 んだ、(2)医療機関の患者対応が充実、迅速化した、 (3)患者側弁護士と協力医のネットワークが整い、無 理な案件は事前にスクリーニングされるようにな った、(4)医療現場の過酷な状況と大半の医師の真摯 な姿勢に対する社会の理解が広まった、(5)医療AD R(裁判外紛争解決手続)により、訴訟以外の方法 で医事紛争を解決する「脱訴訟化」の流れが進んだ 等の諸点が指摘されている。
上記は、いずれも正鵠を得ている。本コラムでは、 そのうち、医療ADR、とりわけ、平成 21 年 1 月 に発足した産科医療補償制度の問題を取り上げて みたい。
産科においては、分娩に関連して、出生した児が 重度の脳性麻痺を発症する例がある。脳性麻痺児は、 成長しても、その状態が改善することは極めて少な いから、家族の精神的、経済的負担は極めて大きい。 従前、この問題を解決するためには、医療訴訟や示 談交渉、調停等により、損害賠償を求めるほかなか った。しかし、医療訴訟は、専門的知見を要する専 門訴訟である。過失と因果関係が認められるためのハードルは高く、その解決には長期間を要するから、 訴訟によって患者とその家族を迅速に救済するこ とは困難であった。また、訴訟は、各医療従事者の 行為の当否を問うものであって、事故の原因を分析 し、将来の結果発生防止を目的とするものではなく、 医療の発展に資するところが少なかった。
そこで誕生したのが産科医療補償制度である。
(会員用メールマガジンに掲載のコラムより一部抜粋。会員用サイトでは全文ご覧いただけます。)